海洋新都市形成に邁進 「新産業の創出」をめざす

インタビュー 上地克明 横須賀市長

(略歴)
かみぢ・かつあき 横須賀市吉倉町生まれ。神奈川県立横須賀高校から1977年早稲田大学商学部卒業。
横須賀市議(4期)を経て2017年7月から現職。64歳。

聞き手:藤本逸朗 日本海事新聞社
    植村保雄 海事振興連盟
日 時:平成30年4月10日(火)
場 所:横須賀市役所

横須賀市は、3月に策定した「横須賀再興プラン」(2018-21年度)で海に関連する地域資源をさまざまな分野で強く意識し、最大限に活用したまちづくりを進める方向性を示しています。上地克明市長に今後の取り組みについてお話を伺いました。

―昨年7月に第37代の横須賀市長に就任されました。まず、海への思いからお聞かせください。

(上地) 私は生まれも育ちも横須賀で、東西を海に囲まれていることが子供の頃から当たり前だと思って育ちました。西海岸は相模湾、東海岸は東京湾という性格の異なる海を持っていることが横須賀の大きな特徴です。
私は若いときに新自由クラブの田川誠一衆議院議員の秘書をしていて、海洋立国日本を主張していました。大学卒業後に貿易商社に入ったこともあり、常に海外とのつながりの中で日本は生きていくべきだというのが私の政治の原点でした。
翻って横須賀を考えたときに海洋都市であるべきだと主張しましたが、横須賀に住んでいると海があるのが当たり前で、目の前に海があることを忘れてしまいがちになり、市民の皆さんからはなかなか理解されませんでした。横須賀は米海軍基地のまち、自衛隊のまちと言われますが、もともとは半農半漁のまちで、海のすぐ後ろに山があり、海の幸にも山の幸にも恵まれています。例えば、旬のアジといえば横須賀に勝る所はないと自負しています。山が海に隣接するような地形は国内の他の都市にない特色で、私は横須賀を日本のイタリア半島と呼んできました。
横須賀はおしゃれなイメージもありますが、色に例えるとグレーなイメージが強いとよく言われます。このイメージを払しょくしながら、海洋都市であることをもう一度高く掲げて、独自の発想で横須賀を発展させていきたいと考えています。

―横須賀には日本の近代化に関わる歴史遺産や産業遺産、文化庁認定の旧軍港4市(鎮守府・横須賀、呉、佐世保、舞鶴)日本遺産構成文化財など、海にも関係深い地域資源が数多くあります。これらの資源をどのように活用しますか。

(上地) 特に、東海岸に多く点在する近代化遺産などを周遊する仕組みとして、市内全体を軍港資料館として捉えた「ルートミュージアム」による整備に取り組みます。併せて、東京湾唯一の無人島である猿島や、うみかぜの路「海と緑の1万㍍プロムナード」を活用した取り組みを進め、観光客をはじめとする多くの人たちが周遊できる環境をつくり、歴史探索など、さまざまに楽しめる機会を提供していきます。プロムナードを走水方面まで行けば海水浴ができますし、横須賀美術館は東京湾を出入りする商船はじめ、漁船やヨットなど、あらゆるタイプの船を見ることができる他に類のない最高のロケーションです。
このほか、住友重機械工業から寄付していただいた西浦賀の浦賀奉行所跡地の活用法については、明治期のレンガ積みドライドックが保存されている同社浦賀工場跡と連動させて検討していきたいと思います。

―西海岸のまちづくりにはどのような構想をお持ちですか。

(上地) 西海岸には、東海岸とは別の顔があります。三浦半島を軽井沢のようなまちにしたいというアイデアもありますが、横須賀の温暖な気候をアピールして佐島を米国の西海岸のようなまちにしたいと考えています。また、西海岸の魅力ある地域資源をゆっくりと堪能してもらうため、ホテルなどの誘致にも取り組みたいと思います。

―海洋レジャーに対する取り組みはいかがですか。

(上地) 横須賀は都心から1時間という立地環境で、釣りやマリンスポーツなど海のレジャースポットがたくさんあります。特に、津久井浜はウインドサーフィンの世界的にも屈指の適地です。昨年からANAウインドサーフィンワールドカップ横須賀大会を誘致しており、今年も5月に開催します。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて横須賀にマリンレジャーの拠点をつくる仕掛けをしたいと思っています。西海岸はセーリングもできますから、それぞれの海の特性を生かした形で取り組みたいと考えています。

―横須賀とゆかりのある英国人ウィリアム・アダムズ(三浦按針)と、按針を外交顧問に登用した徳川家康を題材にしたNHK大河ドラマ制作を要望する署名活動を開始しましたね。

(上地) 大分県臼杵市、静岡県伊東市、長崎県平戸市と本市で構成する「ANJINプロジェクト連絡協議会」では、大河ドラマ化実現に向けてさらに機運を高めていくため、署名活動をスタートしました。4月8日には横須賀中央駅Yデッキで4市の市長・議長等が街頭署名活動を行いました。これも横須賀が海洋都市であるがゆえの連携活動であり、観光の起爆剤にしたいと思います。

―いろいろな仕掛けを考えているようですね。

(上地) 横須賀のポテンシャルは大変高く、観光の点はたくさんあるのですが、残念ながら線としてつながりになっておらず、持っているポテンシャルをまだまだ生かし切れていません。点を線にするストーリーが必要です。いろいろな切り口や見せ方をストーリーに仕立てて、「まちはどこでもテーマパーク」を目指して「観光立市よこすか」を実現していきたいと思います。
横須賀は今、少子・高齢化による「閉塞感・停滞感の蔓延」で自信を失っています。横須賀を復活させたいという市民が秘めているマインドを盛り上げて、ストーリーとしてまとまりをつくっていくことが私の使命だと思っています。

―横須賀再興プランでは、目指すまちづくりの方向性の一つに海洋都市を掲げ、最重点施策の第1の柱に経済・産業の再興を挙げています。横須賀には、住友重機械マリンエンジニアリング横須賀造船所、海洋研究開発機構、港湾空港技術研究所など海洋関係の企業や研究機関が数多く集積しています。海洋分野の産業振興にはどう取り組みますか。

(上地) 市長に就任してすぐに海洋関係の企業や研究機関と共同でさまざまな会合を開いて、連携を深めています。海洋産業を横須賀へさらに集積して、新しい産業を創出できる仕組みを今年度からつくっていきたいと考えています。

―経済・産業を支える物流面の強化にはどのように取り組みますか。

(上地) 市長に就いて真っ先に国道357号(東京湾岸道路)の早期整備を要望しました。357号は1988年6月に都市計画決定がなされ、1993年度に八景島(横浜市金沢区)まで整備されましたが、残念ながら30年にわたり未整備の状態が続いていました。昨年秋に国に要望活動を行い、2017年度補正予算の成立を踏まえ、夏島地区の工事が着工されました。整備が進めば物流コストも低減しますし、物流の効率化による新たな企業の進出や横須賀港の取扱貨物量の増加も期待できます。また、国道16号の渋滞も緩和されます。

―宮崎県日向市との連携・協力協定に基づく久里浜港への航路誘致の取り組みはどのように進めますか。

(上地) 久里浜港を海上物流の拠点にしたいと思います。東京湾の中まで行かずに船の貨物を積み降ろしできれば首都圏全体の物流の活性化にも貢献できます。背後圏との連携や物流の活性化方策などについて、今年度に改めて物流調査をして、その結果を踏まえてトップセールスをしたいと考えています。